受賞者

令和5年度<風戸研究奨励賞> 受賞

※研究者の所属等は受賞時点のものです

授賞課題:苦味受容体T2Rのクライオ電子顕微鏡構造解析

岡山大学 学術研究院 助教
堤 尚孝

堤 尚孝 氏の研究は、基本五味である「うま味」、「甘味」、「苦味」、「塩味」、「酸味」のうち苦味を感知する受容体(Taste 2 Receptor:T2R)について、クライオ電子顕微鏡法による単粒子解析により立体構造を解析し、苦味物質の認識機構ならびに活性化された受容体による細胞内シグナルの開始機構を解明しようとするものです。

T2RはクラスT型Gタンパク質共役型受容体(GPCR)であり、ヒトは舌上で数千種類の苦味物質を25種類のT2Rを組み合わせて認識することができます。これまでに報告されたT2Rの構造は、ヒトT2R46の1サブタイプのみであり、T2R46を除いて構造解析に適した高品質タンパク質を得ることが非常に困難であったことから、クラスT型GPCRに共通する活性化機構に関しては十分な知見が得られていません。

堤氏は、これまでにクライオ電子顕微鏡単粒子解析により多数の膜タンパク質の構造決定に貢献しています。また、独自に開発した膜タンパク質発現技術により各種T2Rの高発現を実現しました。これらの技術を基に、ヒトT2RのうちT2R46との類似性が比較的低いサブタイプの構造解析を目指しています。標的としては、例えばT2R38が挙げられます。T2R38は苦味感受の個人差を引き起こす分子であることから学術的に興味深く、また免疫細胞上で機能することが報告されているなど医薬分野への貢献も期待されます。

本研究において、各種T2Rの立体構造を高分解能で解析し、苦味物質との結合様式やGタンパク質の活性化機構に関する理解を深めることに加えて、立体構造を基に苦味を調節する物質のバーチャルスクリーニングと合理的なデザインを試み、苦味のシグナル特性の研究への展開も想定しています。

よって、今後の研究の一層の発展を期待して、ここに風戸研究奨励賞を贈呈します。

堤尚孝
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